久保田薫コラム

久保田 薫 アメフト マンダラ

第31話
久保田 薫 アメフト マンダラ
其の2 ビル ウォルシュいよいよNFLヘッドコーチに(1)

1977年の春、所用でスタンフォード大学に立ち寄り用事を済ませキャンパスを歩いていると突然後ろから肩をたたかれた、こんなところで肩をたたかれるような知り合いもいないので落とし物でもしたのかなと振り返ると驚いた事にビル ウォルシュが微笑んで立っていた。(写真・1)
サンディエゴにいるはずなのにと思わず聞くと、何故か口に手を当てシーッとする仕草をし時間があるのならちょっとコーヒーでも飲まないかと言われカフェテリアに入った。 テーブルについてからウォルシュは凄くうれしそうにフットボールコーチというより大学教授と言われたほうがピッタリのおだやかな風貌で「実はスタンフォード大学のヘッドコーチを引き受けることにした、明日の新聞には出ると思うけど一応それまでは内緒にね」と突然切り出した。

ベンガルズのアシスタント コーチとして8年間耐え、次は絶対に自分がヘッドコーチだと信じて疑わなかったが見事に裏切られ、自分はそのような星を持っていないのかも知れないと半ばあきらめながらも、それでもNFLのヘッドコーチの夢を捨てずにチャージャーズからのアシスタント コーチのオファーを将来の夢の実現への布石として引き受けた。まさか、僅か1年でカレッジに戻ってしまうとは、とにかくビックリした。

しかし、話を聞くとウォルシュはサンフランシスコ ベイ エリアに強い憧れを持っていたようでカレッジならサンフランシスコのスタンフォード大学かサンフランシスコからベイブリッジを渡って少し北に行くとバークレイにあるカリフォルニア大学の本校、NFLならサンフランシスコ 49ersかやはりブリッジを渡ったオークランドにあるレイダース等いずれかのチームのコーチをして住居も構えるというのが夢だとも言った。

サンディエゴ チャージャーズのオフェンス コーディネーターを僅か1年で辞めしかもヘッドコーチとはいえカレッジに逆戻りというのも随分悩んだとも言っていた、NFLで功成り名を遂げて最後の奉仕のつもりでカレッジのコーチをするという話は時々ある。 現にウォルシュも49ersで成功を収めた後に再びスタンフォード大に戻ってコーチを務めている。

しかし、この時点でのウォルシュはまだ何も成し遂げていなかった。
ただ、アシスタントではなくヘッドコーチであり念願のベイエリアのスタンフォード大という事と恩師であるジョン ラルストンの薦めもあったことが唯一の慰めであったかも知れないが、カフェテリアでのウォルシュは本当に嬉しそうに終始笑顔で話してくれた。

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